神河当時 - 反転と両面と昼夜
昨日の記事の続きです。

経過観察
2003年の夏、ブライアン・シュナイダーは興味深いアイデアを思いついた。開発部ではたびたび、デザイングループが集まって特定のデザイン領域に関して話し合ったりすることがある(色対抗カードとか、特殊地形とか)。そんな中に、特に目的を持たずに、有象無象な事柄に取り組むグループを持ったらどうなるだろうか? 彼はそれを“実験的デザイングループ”と名づけた。そしてもう一つ、ブライアンがやろうとした革新的なことが、そのグループに常時デザインに関わっているわけじゃない人々を集めたんだ。この考えの背景には、単純に経験を積んだデザイナーの後を追うだけじゃないグループを作ろうってことがある。グループは未熟だろうが、それにより普通のデザイナーが考えもしない領域にたどり着くことをブライアンは期待していた。

そのグループの中心となるのは、ブライアン・シュナイダー、アーロン・フォーサイス、マーク・ゴットリーブ、デヴィン・ロウ、ブライアン・ティンズマンだった (ポール・バークレーやヘンリー・スターンなどの他の開発部のメンバーも時々参加していたね)。彼らの最初のプロジェクトは、昼/夜メカニズムをいじることだった。

チームは多くの時間をかけて、ゲームの状態を変化させる可能性を試してみた。しかし、何も完成することはなかった。どのバージョンにも、それぞれ問題があったんだ。ゲームがめちゃくちゃになったり、我々が望むような変身っぽいものが作れなかったり、ゲームの状況が脆弱すぎて、プレイヤーが昼/夜を使う手間には無駄な努力をそそがなくちゃいけなくなったんだ。数週間のテストプレイの結果、チームはこのメカニズムが実現不可能だという結論に達したのさ。

引用元
反転動転驚天動地――神河物語 の反転カードのデザイン
https://web.archive.org/web/20041217003145/http://www.hobbyjapan.co.jp/magic/articles/files/20040922_01.html


いろいろ試行錯誤した結果、昼夜のメカニズムは頓挫しました。その代わりとして、反転メカニズムが出てくるのですが、それは後日に取り上げます。

このような昼夜のメカニズムは『イニストラード』でも検討されました。そして同様に不採用となりました。ホラー世界、特に狼男においては昼と夜に大きな意味があるので、同様なメカニズムが浮かび上がるのは自然なことだったのですが……。


ホラーにおいて存在に複数の状態があるのなら、マジックにも、カードの一部に複数の状態を持たせるメカニズムが必要である。吸血鬼が狩りをするのはいつかといえば、太陽の光がない夜である。狼男が吠えるのはいつかといえば、人間でなくなる夜である。ゾンビが脳を求めてうろつくのはいつかといえば、いつでもいいけれど夜は彼らの時間だろう。そう、ホラーでは昼と夜が重大な意味を持つ。となれば、それをマジックでも再現しなければならない。

チームにこの昼夜の問題に取り組ませたところ、多くのアイデアが寄せられた。プレイテストの結果、アイデアは2つに絞り込まれた。1つめは文字通り、今が昼であるか夜であるかを示すというメカニズム。過去のいくつものチームが昼夜の問題に取り組んできたが、一度としていい解決策を見いだせてはいなかった(神河物語のデザインにおいても挑戦されていた。その顛末はこちら(リンク先は英語)から確認できる)。最大の問題は、どのシステムも複雑すぎて表現が非常に冗長になるということだった。

私のひらめきは、両面を使った昼夜カードを作り、他のカードがそれを出すというアイデアだった。文章のほとんど(より視覚的にするためにテキストレスにすることもできるとわかった)は昼夜カードに記されていた。その後、昼夜を変更するのは呪文を唱えることによる誘発型能力に変更された。ここで我々はもう一つの問題に直面した。それは、昼夜の変化をプレイヤーが操作できるようにしたいということだった。プレイによって今起こっていることを変更できるようにすれば、プレイはずっと楽しくなる(これは後に狼男の変身メカニズムでも問題になる。それについても今日話してしまいたいのだが、ふさわしくないので次回かその次か、先に回すことにする)。

その一方で、チームはもう一つの変身メカニズム、両面カードに取り組んでいた。

引用元
翻訳記事その他 2011.8.31 両面それぞれの物語
https://mtg-jp.com/reading/translated/0003989/


※『こちら(リンク先は英語)』というのは上述の『反転動転驚天動地』の原文です。

ここで検討されていた昼夜メカニズムは、神河の土地を使ったものと違って、より直接的な表現でした。

羊の皮を被った狼男
昼夜メカニズムのデザイン中に出てきた大きな発想の転換は、今が昼か夜かを示す両面の昼夜カードだった。昼か夜かという状態を表すために何かを書き表すのではなく、単にこの昼夜カードを出せば良いのだ。その後は、このカードだけで処理することが出来る。

昼夜カードを働くようにするための鍵は、1種類の記録だけをすればいいということだった。記録表の半分は昼で、記録表の半分は夜である。何らかの条件を満たすことによって、記録表のカウンターが1個進む。そのカウンターが片面の端まで到達したら、カードをひっくり返すことで昼と夜が変わるのだ。狼男を含む、昼か夜かを参照するカードには、昼の時はどんな状態で、夜の時はどんな状態かが記されている(そのための方法はいくつもあるが、実際にそこに至ることはなかったのでその方面の議論はなされなかった)。

まず、その誘発条件は単一で、記録しやすいものである必要がある。次に、まれに起こるようなことでは忘れてしまうので、ある程度頻繁に起こることでなければならない。そして、両プレイヤーができる何かでなければならない。一人のプレイヤーが完全にコントロールできるようなものではないようにして、全てのプレイヤーが影響を及ぼすようにするのだ。こうかみ砕いていくと、答えはかなりはっきりする。呪文を唱えたことを記録すれば良いのだ。

これが実際にどう働くのかを示すため、プレイテストで作ったサンプルカードを見てもらおう。

(添付画像参照)

このカードは、1つめの場所にカウンターが乗った状態で戦場に出る。そして、どちらかのプレイヤーが呪文を1つ唱えるたび、カウンターが1つ進む。3つめの場所から4つめの場所に進むとき、カードは裏返って夜になる。すでに述べたとおり、変身カードは昼と夜それぞれの状態を持っているのだ。

最終的に、この昼夜メカニズムは多くの問題が発見されて没になった。複雑すぎる上に長ったらしく、その時点で意味をなさないものを記録するという手間がかかるなどだ。呪文を唱えることを変身のために使うという発想自体はおもしろかった。ゲームに有機的な相互作用をもたらしてくれたのだ。これによって、どちらか1人が完全にコントロールするのではなく、両プレイヤーが影響を及ぼすことになる。

失敗が成功の母だということもよく言ってきた。アイデアは生まれたときから完全な形だと信じられているが、実際はそうではなく、良いアイデアはいろいろなところから集められた情報を元にくみ上げられていくのだ。昼夜メカニズムはセットには入らなかったが、その中核をなした部分は狼男メカニズムの背骨となって生き続けている。

引用元
翻訳記事その他 2011.10.19 野生の血に目覚めよ
https://mtg-jp.com/reading/translated/0004001/


※『先のコラム』とは上述の『両面それぞれの物語』です。

採用こそされませんでしたが、呪文をトリガーとするのは、狼男の変身条件に活かされました

そして、検討されていたもう一つのメカニズム「両面カード」と合わさって、現在の狼男が出来上がりました。

どちらも昼夜メカニズムが不採用になった結果、反転と両面という兄弟のようなメカニズムが出来上がったのは面白いところです。

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