神河当時 - サブタイプ「秘儀/Arcane」の誕生
『神河物語』5日目のプレビューです。

私が受ける最も一般的な質問に、「アイデアが品切れになってしまうのが怖くないですか?」というものがある。一言で言えば、ノーだ。だけど、私のコラムが一言で終わったことがあったかい? 長めの回答をすることは、君たちみんなをちょっとした秘密へと招待することになる (我々だけの秘密だよ)。デザイナーは、一年に実際商品となるよりも多くのアイデアを生み出している。我々はアイデアの品切れどころか、実際にアイデアを溜め込んでいるのさ。

どうしてそんなことができるのかって? では、例としてフィフス・ドーンを取り上げよう。私がフィフス・ドーンのデザインをあれこれやっていたとき、私はメカニズムXを思いついた。私はカードを何枚か作って、それでちょっと遊んでみた。メカニズムXは非常に面白かった。そこで私は、それを組み込む場所を探し始めた。しかし、それは我々が現在埋めようとしているどの穴にもはまらなかったんだ。何か他のものを除いてこいつをはめることもできたけど、そっちはデザイン上極めて欠くことのできないものだった。そこで、私は今回のメカニズムを未来のデザインのために取っておいたのさ。こんなことはしょっちゅうだ。事実、神河物語のキーワードの一つが、このメカニズムX(少なくともその修正版)だ。しかし、それはまた別なコラムでの話ということにしよう。

今回は、違った種類のデザインの余剰分の話をしよう。私が“肉付きのいい血管”と呼んでるやつだ。ご存知の通り、ここ数年間、開発部は様々なデザインの領域を開拓してきた。その時々に渡って、デザインチームは色々な道を調べては、それがうまく動くかどうかを調べてきたんだ。たまには成功を収めるやつも歩けど、この手の進軍のほとんどは行き止まりで終わる。だからといって、デザイナーがそれで挑戦をやめるわけじゃない。今回のコラムは、そんな旅のうち、最終的に成功を収めたものの話だ。そのちょっとしたものは“秘儀”と呼ばれている。

秘儀の腕輪

まずは、そもそも秘儀とは何かを説明するところから始めたほうがいいだろうね。新しいキーワードつきメカニズム? いや。新しいクリーチャー・タイプ? いや。使命を帯びた登場人物で、全世界に渡る戦争を勃発だか停戦だかさせる人のこと? いや。秘儀は新しいサブタイプだ。インスタントとソーサリー用のね。それ自身の目新しさもそうだけど、最も興味深いのは秘儀が何をするか、というか何をしないかだ。

だが、話を現在に持ってくる前に、まずは過去を尋ねるところから始めようかと思う。最初のサブタイプはアルファ版においてリチャード・ガーフィールドによって生み出された。君たちもその名を十分知っているだろう――クリーチャー・タイプだ。以来数年にわたり、開発部はあらゆる種類のカードにサブタイプをつけてきた。アーティファクトには“装備品”ができた。土地には“神座”とか“ウルザの”とかがついた。エンチャントにも、エンチャント(クリーチャー)なんてサブタイプがある(事実、時としてこれがサブタイプとなることもある――ところで神河物語では新しいエンチャントのサブタイプが登場するけど、それもこのコラムで語る話じゃないね)

開発部は、いつかはインスタントやソーサリーにもサブタイプがつくことを知っていたね。そして、その日がやってきたんだ。でも、インスタントやソーサリーについたサブタイプということが、秘儀の興味深い点じゃない。秘儀に関して整えられたデザイン空間の本当に興味深いところは、それが何もしないことにある。それは、何のルール上の面倒も持たないサブタイプなのさ。はぁ? 装備品とか、基本地形とか、エンチャント(クリーチャー)はすべて共通の重要な事項がある。それらはルール上の何かを抱えてることだ。装備品であることは、ルール上で何らかの意味を持っていた。それじゃ秘儀は? 秘儀のついた呪文は特別なことを行わない。まあ、秘儀がなくったって何も変わりはしないってことだ。

それじゃ、私は開発部がメカニズムに賭けているサブタイプを作った事実をインチキ臭く言いふらしているってことなんだろうか? まあね。それじゃ、何が興味深いんだろうか? その理由は、我々がサブタイプをマーカーとして使っていることにある。マーカーとは何か? マーカーとは、カードについた特別の情報で、そこに存在する以外に何の目的も持たない何かを意味する用語だ。面倒くさいかい? それじゃ、他のタイプのマーカーに使用例を取り上げてみよう。例えば、色。おわかりかと思うが、色はそれ単独では特に何も意味しない。マナ・コストにどの色マナが存在しているかを示していることを除けば、色は単なる特性に過ぎない。しかし、リチャード・ガーフィールドが《十字軍/Crusade》や《青霊破/Blue Elemental Blast》なんてカードを作った瞬間、色はメカニズムと関わることになったのさ。

存在秘儀
サブタイプを単純なマーカーとして使うというアイデアは、ここ数年にわたってみんなの頭の中にあった。しかし、それを思いつくたびに、当時のデザインチームはそれを入れる場所を見つけそこねてきたのさ。ただ、それも神河物語までの話だ。勇敢なデザイナーの一団は、神河ブロックの舞台背景に、このセットのメカニズムの元となるアイデアを発見したんだ。世界は“腐敗した神道”の世界となり、人々は自分たちの“神”が自分に宣戦布告してきたのを見つけた (なぜかって? それは是非とも神河物語の小説をチェックしてみて欲しい)。それはつまり、そこには二つの陣営(精霊と人類)の定義が必要だということだ――特に精霊側は、アーティストが非常に面白いビジュアル的なアイデアを盛り込んでくれたので、なおさらだ。

そしてある時、ブライアン・ティンズマン(かビル・ローズかマイク・エリオットかブレイディ・ドマーマス――私はチームのメンバーじゃないから、例としてチームリーダーを使っておこう)が、精霊には自分たち独自の魔法が必要だということを思いついたんだ。彼らには自身専用のサブタイプが必要だった。おそらく、今こそがサブタイプの領域に新たな一歩を踏み込むタイミングなんだろう。
引用元
秘儀的才能 更新日 Making Magic on 2004年 9月 6日
https://magic.wizards.com/ja/articles/archive/making-magic/%E7%A7%98%E5%84%80%E7%9A%84%E6%89%8D%E8%83%BD-2004-09-06


呪文にサブタイプを持たせた、最初の例が「秘儀」です。現在でも、呪文タイプは「秘儀」「罠」「出来事」の3つしかなく、貴重な存在です。

エンチャントのサブタイプ「オーラ」(当時はエンチャント(~))やアーティファクトのサブタイプ「装備品」とは異なり、呪文のサブタイプ「秘儀」には特別なルールを設けていません。その点では、クリーチャー・タイプとほぼ同じ扱いでしょう。「神々の使う呪文」というフレイバーを表すだけのものです。

もし、「秘儀」も特殊なルールを持たせていた場合、どうなっていたかは興味深い所です。「もしMTGをやり直せるなら、伝説は単なるマーカーにしたい」(※1)と述べていますが、それと同じ評価になっていたのでしょうか。

※1
神河資料 - レジェンド・ルール
https://researchofkamigawa.diarynote.jp/202001072218452110/

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