神河教訓 - ドミナリアの歴史的
前回の日記で見た通り、神河の伝説テーマの扱い方は大失敗でした。
では、伝説はどのように扱うべきだったのでしょうか?
その点の反省が特に生かされたのがドミナリアの歴史的でした。


Making Magic -マジック開発秘話- 2018.4.2 懐かしの地に
https://mtg-jp.com/reading/mm/0030471/

ドミナリアは間違いなく大量の有名な人物がいる世界なので、伝説をテーマにするのはそれよりはドミナリアにふさわしい。しかし、伝説をテーマにするのは以前『神河物語』ブロックで試みており、問題があることが証明されていた。伝説のパーマネントは高いレアリティに偏っており、特にリミテッドにおいてメカニズム的に意味を持たせるには開封比(ブースターパックに含まれるそのカードの割合)が低すぎるのだ。

全体のテーマとしての「エンチャント関連」はドミナリアには合わず、テーマとして扱えるようなエンチャントの一部分という分け方はほとんどない。どれも使い物にならないと思われた。

そんなとき、私はある提案をしたのだ。「歴史的」というような単語を作って、それを特殊タイプとして使うというのはどうだろうか。歴史的なものを示すものなら何でもこのラベルをつけるだけだ。歴史的クリーチャー、歴史的アーティファクト、歴史的エンチャント、歴史的土地。我々はプレイテストをしたが、この計画には2つの問題があった。

1つ目に、欠色で学んだ通り、プレイヤーの多くは開発部語で言う「目印」を嫌っている。目印とは、他のカードで参照するためという以外にメカニズム的意味を持たない単語のことである。2つ目に、そのメカニズムには全く後方互換性がない。ドミナリアを再訪して、過去のドミナリアのカードと組み合わせられないようなメカニズムを作るというのは間違っていると思われた。

ここで、アーロンからある提案があった。アーティファクトと伝説のパーマネントをひとまとめにしたらどうだろうか、と。マジックにおいて歴史を表している2つのものを組み合わせることで、メカニズム的に歴史を表現するというのはどうか、と。

私が歴史的という特殊タイプでやろうとしていたことに近かったので、私はそのアイデアのことを非常に気に入った。私は、プレイヤーがデッキを構築する間に別の考え方をしなければならなくするようなテーマが大好きなのだ。私は、複数の分類のものをまとめる方法を探していたが、アーロンのアイデアはそれと同じことを別の角度からしていたのだ。

プレイヤーは、アーティファクトをテーマとしたデッキを作ったことがある。伝説のパーマネントをテーマとしたデッキを作ったことがある。しかし、それらのテーマを混ぜ合わせたデッキを作ったことはないのだ。これは、新しい分類を作らずに新しいものを作り出す方法だった。

また、それは『神河物語』にあった伝説のカードの開封比問題を解決する助けにもなった。伝説のパーマネントは、それ単体では、開封比の問題がある。しかし、低いレアリティに編み込むことができるアーティファクトと組み合わせれば、回避方法になるのだ。(そのセットのリード・デザイナーであったデイブ・ハンフリー/Dave Humpherysは、開封比問題に対応するため、パックに1枚伝説のクリーチャーを入れる枠を作った。)



Making Magic -マジック開発秘話- 2018.4.9 歴史的な話
https://mtg-jp.com/reading/mm/0030487/

問題は伝説にあり
先週、我々が歴史という概念をメカニズム的に再現しようとしたという話をした。アーロン/Aaronが、アーティファクトと伝説の存在を参照することを提案し、私はすぐにその発想を受け入れたのだ。私が語っていなかったのは、その理由である。

アーティファクトと伝説の存在の組み合わせが、単に伝説の存在だけよりも良かったのはなぜか。それを理解するために、ここで、かつて伝説の存在に意味を持たせようとした『神河物語』ブロックに立ち戻らなければならない。そのブロックでどのような多くのデザイン上の失敗がなされたかという話をしたことがあるが、その中の1つが「伝説の存在関連」テーマだった。ここで、この問題の基本について説明させてもらおう。

#1 ― 開封比問題
開封比が問題なのは、伝説のカードは高いレアリティに多い傾向にあるからである。ほとんどのセットでは、それらはレアと神話レアにだけ存在する。『神河物語』ブロックでは、レアのクリーチャーはすべて(当時は神話レアはまだ存在しなかった)伝説のクリーチャーであったが、それでもほとんどのプレイヤーにとっては意味を感じられるほどにはならなかったのだ。我々はさらにアンコモンの伝説のクリーチャー(めったにやらないことだ)を加えたが、それでも開封比はリミテッドでそのテーマを成立させるにはあまりにも低い値だったのだ。

開封比を充分高くするために特定の条件を満たすコモンのカードがどうしても必要で、しかしコモンの伝説のクリーチャーを作るのは伝説のクリーチャーのフレイバー(1つしか存在しないもの)を無視する行ないなのだ。『ドミナリア』のリード・セットデザイナーであったデイブ・ハンフリー/Dave Humpherysは、(イーサン・フライシャー/Ethan Fleischerのアイデアに基づき)すべてのパックに伝説のクリーチャーが1枚ずつ入るようにすることにした。これは間違いなく助けにはなったが、それでさえも開封比は我々の望むほどの値にはならなかったのだ。

#2 ― 点数で見たマナ・コスト問題
点数で見たマナ・コストとは、呪文にかかる合計のマナの数のことである。{1}{U}{U}が必要な呪文の点数で見たマナ・コストは3で、{5}{R}が必要な呪文の点数で見たマナ・コストは6である。点数で見たマナ・コストは色を参照せず、単にどれだけの量のマナが必要かだけを見る。

伝説の存在は、レアリティの高い方に集まっているのと同じように、点数で見たマナ・コストでも高い方に集まっているのだ。大抵の場合、伝説のクリーチャーは他のクリーチャーに比べて、大きく、多くの能力を持ち、ゲームに大きな影響を与える。そのため、我々はそれらを重くすることになる。何か「関連」のテーマを扱う場合、それを大量にプレイする必要がある。その何かが重くなる傾向にあると、それを大量に1つのデッキに入れるのは難しくなるのだ。また、マナ・カーブを埋める(何かを毎ターンプレイできるようにするため、コストがお互いに異なるカードを充分に入れる)のも本当に難しい。

#3 ― 色問題
また、伝説のクリーチャーは、複数の色を持つ傾向にある。フレイバー、デザイン、統率者といった理由から、伝説のクリーチャーのマナ・コストには色を追加する方向の圧力がかかるのだ。つまり、1つのデッキに大量の伝説のクリーチャーを入れる場合、そのデッキの色は多くなる傾向にあるということである。問題をさらに悪化させているのは、色を安定化させるために使うようなカード自身は伝説のカードではないことが多いということである。

#4 ― 実用性問題
伝説のアーティファクトやエンチャント、土地、プレインズウォーカー(そして『ドミナリア』ではさらにソーサリー)を作って入るが、伝説の存在といえばその大多数はクリーチャーである。また、伝説の存在は比較的大きく派手なものにする傾向がある。そのため、伝説の存在を詰め込んだデッキは、ほとんどのデッキに比べて柔軟性が低くなる。つまり、必要な実用性を得るためにはテーマを破らなければならない傾向があるということである。

ここで、アーティファクトを追加することが魅力的に見えた理由がわかることだろう。開封比を引き下げる(訳注:正しくは「引き上げる」)助けとなる、コモンやアンコモンのアーティファクトを印刷することができる。マナ・カーブを埋める助けとなる、軽いアーティファクトを作ることができる。アーティファクトは、重い多色カードをプレイする助けとなる、ランプや色の追加に有用である。そしてアーティファクトはあらゆる実用性をもたらすことができるのだ。アーティファクトは単にテーマ的にいい組み合わせだと言うだけではなく、伝説の存在の大きな問題となる隙間を埋める助けとなるのだ。

私がメカニズムについて話すとき、そこにはさまざまなものがある。派手さを加えるもの。フレイバーを加えるもの。実用性を加えるもの。しかし、メカニズムの中には、私が接着メカニズムと呼んでいるものが存在する。それらは、セットを成立させるものである。それらは、あらゆるものを繋ぎ合わせるものである。デザインの観点から言うと、接着メカニズムは大黒柱なのだ。



伝説を再び扱うにあたり、重要だったのが、アーティファクトなどと伝説をひとまとめにすることでした。
これにより、伝説だけを扱う場合の問題点をクリアすることができました。

神河ブロック全体で伝説であるコモンは1枚もなく、伝説を参照するコモンは《狐の癒し手/Kitsune Healer》ただ1枚だけです。
これがプレビュー・カードだったので、伝説テーマであることを示唆したかったようですが……。
一方、ドミナリアでは歴史的であるコモンは11枚、歴史的か伝説を参照するコモンは9枚にまで増えました。
神河での教訓を活かせたと言えます。

コメント

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

この日記について

日記内を検索