神河教訓 - トップダウン・デザインの手法
2019年12月6日 Magic: The Gathering
神河ブロックはマジック最初のトップダウン・デザイン・ブロックです。
その結果は(これまでも話した通り)失敗だらけで、「しばらくトップダウン・デザインをやりたくない」と思わせたほどでした。
Making Magic -マジック開発秘話- 2014.2.19 神啓を受けて その1
https://mtg-jp.com/reading/mm/0008492/
しかし、その失敗からデザイン上の教訓を多数を得ました。
Making Magic -マジック開発秘話- 2014.2.26 神啓を受けて その2
https://mtg-jp.com/reading/mm/0008604/
Making Magic -マジック開発秘話- 2017.5.23 こぼれ話:『アモンケット』 その1
https://mtg-jp.com/reading/mm/0018873/
まとめるなら、「元ネタではなく、プレイヤーのイメージに忠実であるべき」と言えます。これは他のコラムでも繰り返し述べられているからです。
Making Magic -マジック開発秘話- 2013.10.2 テーロス、それは赤き者(とか白とか青とか黒とか緑とか) その1
https://mtg-jp.com/reading/mm/0004245/
Making Magic -マジック開発秘話- 2013.10.16 テーロス、それは赤き者(とか白とか青とか黒とか緑とか)その2
https://mtg-jp.com/reading/mm/0004247/
神河はトップダウン・デザインをやりたくなくなるほどの大失敗でしたが、その次に作られたトップダウン・デザインのイニストラードは大成功となりました。さらにテーロスも成功し、トップダウン・デザインに対するトラウマは払拭されたと言えます。
Making Magic -マジック開発秘話- 2012.9.6 デザイン演説2012
https://mtg-jp.com/reading/mm/0004195/
Making Magic -マジック開発秘話- 2013.9.4 デザイン演説2013
https://mtg-jp.com/reading/mm/0004241/
Making Magic -マジック開発秘話- 2014.8.19 デザイン演説2014
https://mtg-jp.com/reading/mm/0011020/
トップダウン・デザインは人気となり、これ以降も何度も行われるほどです。
神河の教訓の中でも、特に大きな影響を与えたと言えます。
その結果は(これまでも話した通り)失敗だらけで、「しばらくトップダウン・デザインをやりたくない」と思わせたほどでした。
Making Magic -マジック開発秘話- 2014.2.19 神啓を受けて その1
https://mtg-jp.com/reading/mm/0008492/
『神河物語』ブロックは我々の初めて挑んだトップダウン・デザインであり、そのトラウマから何年もトップダウンのデザインを忌避してきたのだ。
しかし、その失敗からデザイン上の教訓を多数を得ました。
Making Magic -マジック開発秘話- 2014.2.26 神啓を受けて その2
https://mtg-jp.com/reading/mm/0008604/
『神河物語』ブロック
『神河物語』は、今日「トップダウン」デザインと呼ばれる、この手法をブロック全体を貫く神啓として用いようという初めての試みであった
(中略)
結局の所、我々はこのブロックのデザインにおいて多くの失敗を犯し、それらの失敗全てが何年も後に『イニストラード』で再びトップダウン・デザインに挑むときの教訓になっている。デザイン面から見た大きな誤りを2つあげるとしたら、次のものになる。
1.メカニズムを棚に上げてフレイバーにこだわりすぎた
ビルの戦略は、メカニズムの決定前にクリエイティブ・チームに世界を作らせるというものだった。この戦略の問題点は、メカニズムがフレイバーに比べてずっと硬直したものになってしまうことである。その結果、メカニズムはこじつけめいたものになり、また寄生的なデザインになってしまった(寄生的なデザインとは、そのセットのカードと組み合わせてしか使えないメカニズムのこと)。
2.雰囲気よりも正確さを重視してしまった
クリエイティブ・チームは日本神話の再現には素晴らしい成果を発揮した。問題は、ユーザーの多くが詳しくない様々な要素に注目していたことである。新しい知識を与えるのは悪いことではないが、それは高いレアリティに少数だけあるべきである(『テーロス』はこの点をうまくこなしたと思う。例えば《百手巨人》はコモンではなくレアになっている)。実世界の神啓を使う時には、ある一定量の予想を守るのは大切なことなのだ。
私は、失敗は学習の元だと考えることにしている。思い返してみると、このブロックは大成功だったとは言えないが、『イニストラード』や『テーロス』のようなブロックを作る手法を学ぶことはできたと言えるだろう。
Making Magic -マジック開発秘話- 2017.5.23 こぼれ話:『アモンケット』 その1
https://mtg-jp.com/reading/mm/0018873/
Q.『アモンケット』では、『神河』ブロックで失敗したどんな課題を乗り越えていますか?
A.『神河物語』ブロックでは、トップダウン・デザインに関して様々な重要なことを学んだ。
1.楽しさは正確さよりも重要である
『神河物語』は日本神話そのものではなく、『アモンケット』はエジプト神話そのものではない。我々はそれらに触発されたマジックの世界を作っているのだ。つまり、元ネタに忠実な道とより良く楽しいセットを作る道があったなら、その後者の道を選ぶべきなのである。
2.共感に従え
ユーザーは長年ポップカルチャーなどを通して元ネタと触れ合ってきたことによって先入観を持っている。ユーザーの先入観を理解し、プレイヤーがその世界に特定の影響を求めている理由を満足させられるだけのものを提供しなければならない。
3.コモンはわかりやすく
最も知識を持ったユーザーに焦点を当てたわかりにくいものを少し仕込むのは問題ないが、そうする量は制限し、頻度を抑えるために高いレアリティにするべきである。
4.マジックらしくする方法を探れ
トップダウンのマジックのセットで最もクールなことの1つが、元ネタをマジックの要素と組み合わせることである。マジックらしさを感じさせるように元ネタの影響を描く方法を見つけることが大切なのだ。
5.名付けに注意せよ
『神河物語』の最大の失敗の1つは、その名付けにあった。日本の名前らしさを再現しようとして、カード・タイプをわかりにくくしてしまい、プレイヤーがカード名を覚えることも難しくなっていた。世界観を描く中でも、カード名は実用的でなければならない。
まとめるなら、「元ネタではなく、プレイヤーのイメージに忠実であるべき」と言えます。これは他のコラムでも繰り返し述べられているからです。
Making Magic -マジック開発秘話- 2013.10.2 テーロス、それは赤き者(とか白とか青とか黒とか緑とか) その1
https://mtg-jp.com/reading/mm/0004245/
神河ブロックで得た大きな教訓の1つに、元ネタに忠実であることと芳醇であることの間には大きな隔たりがある、ということがある。一方で、ほとんどのプレイヤーがトップダウン・デザインを楽しんでいる理由は、彼らの知っているものだと認識しているからだ。そう、彼らは少し学ぶことが好きだが、セットの中核が想像と違うものだったなら、トップダウンは崩れて真っ平らになってしまうのだ。
神河ブロックでは、クリエイティブ・チームは神道の神話を理解するのに多大な時間を費やした。問題は、受け手のほとんどが神道に馴染みがなかったため、芳醇だと感じるのではなく異質だと感じられてしまったのだ。ここからの教訓は、セットの基礎を馴染みあるものにすることが必要だということ、その後で、正確だけれどもよく知られていないことを風味付けに使うべきだということである。前者はコモンやアンコモン、後者はレアや神話レアに関する話ということになる。
Making Magic -マジック開発秘話- 2013.10.16 テーロス、それは赤き者(とか白とか青とか黒とか緑とか)その2
https://mtg-jp.com/reading/mm/0004247/
『神河物語』ブロックで得た教訓の1つに、元ネタそのものではなく、プレイヤーがそうだと思っているネタを供給すべきだということがある。実際にどうかということよりも、どう認識されているかということのほうが重要なのだ。「タイタンの戦い」によって、クラーケンはギリシャ神話の一員となった(ちなみに、海蛇はギリシャ神話の存在なので、ほとんどの部分では言葉の選択に過ぎない話なのだ)。そこで我々はクラーケンを使うことにしたのだ。
《百手巨人》のような、ギリシャ神話のマイナーな存在を無視するというわけではない。しかし、それらはより高いレアリティに入れられることになる。
神河はトップダウン・デザインをやりたくなくなるほどの大失敗でしたが、その次に作られたトップダウン・デザインのイニストラードは大成功となりました。さらにテーロスも成功し、トップダウン・デザインに対するトラウマは払拭されたと言えます。
Making Magic -マジック開発秘話- 2012.9.6 デザイン演説2012
https://mtg-jp.com/reading/mm/0004195/
多くのセットに芳醇さのかけらはあるが(たとえばゼンディカーには冒険世界を再現する罠、探索、同盟者といった要素がある)、過去にトップダウン・デザインで作られたブロックは1つしかない。神河物語である。デザイン上の観点からいうと神河ブロックは失望するようなものなので、イニストラードは未踏の地に踏み入ったことになる。
私はデザインのこの変化に非常に満足している。望み通りのことをやってくれたと感じている。イニストラードは諸君らみんなにトップダウン・デザインが可能であることを示した。マジックの未来にはさらなるトップダウン・デザインがあることだろう。これも合格、二重丸だ。
Making Magic -マジック開発秘話- 2013.9.4 デザイン演説2013
https://mtg-jp.com/reading/mm/0004241/
2014年度目標#1:トップダウン・デザインの方法を理解していることを示す
マジックはこれまでに2回、トップダウン・デザインによるブロックを経験してきた。『神河物語』と『イニストラード』である。1つは大成功を収め、1つは――『神河物語』だった。この目標はつまり、「トップダウン・デザインの方法を理解したのか、それとも『イニストラード』が特別だったのか」ということである。
この目標で合格するとは、単に人気のあるブロックを作るというだけではなく、その元ネタの感覚を再現していると顧客が感じるようなブロックを作るということである。これまでもこれからも言う通り、トップダウン・デザインとは、何か現実世界のものを元にしたマジックの世界を作るということである。単にもう一度作るというのではなく、その元ネタを元にした自分たちの何かを作るのだ。例えば、今回、ギリシャ神話の神々(ゼウス、ポセイドン、ハデスなど)を使うのではなく、カラー・ホイールに従った我々の神々を使っている。
Making Magic -マジック開発秘話- 2014.8.19 デザイン演説2014
https://mtg-jp.com/reading/mm/0011020/
トップダウン・デザインで成功した
『テーロス』のデザインを始めたとき、私の意識には『イニストラード』があった。『イニストラード』でのトップダウン・デザインの出来映えには満足していたが、同様に芳醇なトップダウン・デザインをもういちどできるかどうかには少しばかり不安があった。また、ギリシャ神話はゴシックホラーよりもずっと複雑だ。ホラーというジャンルに関する人々の経験は映画やテレビから来ており、プレイヤーの持っている世界観は共通のものだった。ギリシャ神話に関しては、経験は本から来ていることが多く、本というメディアは読者によって世界の理解が違ってくるものである。つまり、人によって期待しているものが違うことがありえるのだ。
また、マスメディアでゾンビや吸血鬼を見れば、その動きは理解できるが、ギリシャ神話ではそうはいかない。ゾンビの群れがどう動くかは誰もが知っているが、ケンタウルスの生態はそれほど明確ではないのだ。
これはつまり、今回は違う手法でトップダウン・デザインをしなければならないということである。非常に喜ばしいことに、我々はこれに成功したと言えると思う。神々は大成功だった。フレイバーに富んだメカニズムもほとんどは成功だった。神話を連想させる個別カードも非常に評判が良かった。様々な期待がある中で、我々はそれらのテーマを推し進めるようなプレイとなるセットで、そのほとんどを達成したのだ。
トップダウン・デザインは人気となり、これ以降も何度も行われるほどです。
神河の教訓の中でも、特に大きな影響を与えたと言えます。
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